開廃業率

数字

開廃業率とは、開業した者の割合と、廃業した者の割合を併せた用語のことです。
開業率が高く、廃業率が低いということは全体として事業者数が増加していることを意味します。
逆に開業率が低く、廃業率が高いということは、事業者数が減少することを意味します。

日本は開業率が低いとずっと言われていますが、どうなのでしょうか。
他国と比較したデータがこちらです。

出典は中小企業白書平成29年度版です。

中小企業白書では、他国と比較した場合の開業率の低さをどちらかと言うと否定的に捉えているようです。
確かに、主要国と比較した場合、開業率はかなり低い数字になっています。アメリカと比較した場合、約5ポイントの差になっています。
では、廃業率はどうかとみると、これも開業率と似たような傾向です。やはりアメリカと比較した場合、約5ポイントの差があります。

つまりこれはこういうことです。

アメリカは起業する人は多いが、廃業する人も多い
日本は起業する人は少ないが、廃業する人は少ない

これをもうちょっと突き詰めて考えて行くと、「日本は、なかなか会社は立ち上がらないが、一度立ち上がると廃業に至るケースは少ない」ということです。
実はこれは日本の会社を語る上で、非常に重要なことです。企業の安定感というものに直結するからです。

まず、考えなければならないのは、人はなぜ企業するのかということです。
十分な数の働き口があり(つまり選択できる)、かつ将来的に安定した収入が得られる見込みがあり、就職先で自分が幸せになれそうだと思ったら、起業しようとする人は少ないでしょう。
これは万国共通だと思います。わざわざリスクを冒して起業するより、他人が作った器の中で幸せに暮らせるなら、そちらを選ぶ人が多数だと思います。

でも、働き口が少ない、就職したところでいつ潰れるか(あるいはクビになるか)分からない、就職先では就職時から退職までずっと同じようなことをやらされる、というような社会だったらどうでしょうか?
リスクを取ってでも、起業しようと思う人が一定数出てくるのは自然なことだと思います。

日本の場合、レイオフや会社の倒産は、増えたといっても日常茶飯事といったレベルではないでしょう。
つまり日本の社会は「起業が少なくダイナミズムが不足している」のではなく「起業する必要がないほど恵まれた環境」ということができるのです。

「いや、資金の調達に代表されるように、日本の起業には大きな壁がある。だから起業する人が少ないんだ」という反論もあろうかと思います。
これも見方は逆かもしれません。
起業しなければならない社会であれば、起業の環境は自然と整っていくはずです。
しかし、必ずしも起業しなくてよい社会であれば、なかなか起業に適した環境にならないのは当然です。

「環境が整っていないから起業が増えない」のであれば、環境が整えば起業が増えるという理屈になるはずです。
でも実際に起業が多かったのは戦後直後です。(データが残っている最も古い年度の数字は1955年の開業率は19.36%です)
今よりも環境が良いとは考えられません。
日本人でも必要に迫られれば積極的に起業するということの現れではないでしょうか。

起業が少ない=ダメな社会ではありません。
さらに言うと、日本の会社は自らを環境に合ったように変えていき、生存する力を持っています。絶大なる環境適応能力です。
それについてはまた別の機会にお話します。

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