ステンレス

技術

勘違いしてました

お恥ずかしい話ですが、10年ほど前まで私は、アルミニウムなんかと同じように「ステンレス」という金属が世の中に存在していると勘違いしていました。
「ステンレスって要は鉄だよ」
と聞いた時の衝撃は今でも忘れません。
「え、だって磁石くっつかないし、錆びないし・・・」
高校生の時に化学の授業をないがしろにしていたツケが回ってきました。
恥を忍んで、その時に色々教えてもらったのですが、実はステンレスは鉄に混ぜ物をした合金だったのです。
ということで、今回は意外に勘違いしている人が多いステンレスについて書いてみます。

ステインレス

たぶん「ステンレス」という日本語が勘違いを生む要因なのかなと思います。
正しく発音するなら「ステインレス(stainless)」
ステインは錆びという意味ですから、「錆びない」合金ということです。
それが短縮されて、日本語ではステンレスになったのでしょう。

錆びないようにするために、鉄に混ぜ物をしてステンレスにするのです。
では、鉄に何を混ぜるかというと、クロムやニッケルを混ぜます。
そして、クロムがステンレスが錆びないという特徴を持つのにとても重要な役割を果たします。

クロムは空気中の酸素に触れるとすぐに酸化する性質があります。
ステンレスを作る時、鋼材の表面にあるクロムは酸素に触れますので、瞬時に強固な酸化被膜を形成します。
この被膜が鉄分子が酸素に触れるのを防ぎ、錆びを防止することができるのです。
わかりやすく言えば、鉄が錆びる前に、クロムを錆びさせて膜を作り守ってしまう、ということです。

ステンレスに磁石はくっつかないか?

ステンレスは合金ですので、混ぜ物の種類と配合の割合を変えれば、様々な特性を持たせることができます。
ちなみに流通しているステンレスの種類は100種類以上と言われており、それぞれにSUS304・SUS430のような番号がついていて、区別しています。
当然、各々が違った特性を持っているのです。

「ステンレスには磁石はくっつかない」というのは、一般的に目にするステンレスが磁性がないものが多いというだけのことで、磁性のあるステンレスも存在します。
混ぜ物にクロムだけを使ったステンレスは磁性があり、磁石がくっつきます。
混ぜ物にクロム+ニッケルを使ったものには磁性はありません。
つまりよく台所などで使われている、磁石がくっつかないステンレスはクロム+ニッケルを混ぜたステンレスということになります。

また、錆に強いというステンレスの特徴も一概には言い切れません。
比較的錆に弱いステンレスも存在します。
クロムの配合率が13%の13クロム系ステンレスは耐食性が弱く、屋外などで使用していると、錆びてしまいます。

また、寒さに弱いステンレスというものも存在し、クロムの配合率18%の18クロム系ステンレスでは、-10℃以下ではもろくなるという特徴があります。
ですので、用途や使用場所に合わせて適したステンレスを使わないと、すぐに使えなくなってしまうということです。

ステンレスは難削材

ちなみにステンレスは難削材と言われています。
難削材とは文字通り、削るのが難しい材料ということです。
チタンやハステロイ、マグネシウムなどがよく挙げられます。
実はステンレスも難削材とされています。
ステンレスは非常に固いので難削材に分類されています。

でも、金属加工メーカーで「ステンレスは難削材だ」というところはほとんどないでしょう。
当たり前のようにステンレスを加工機械でガリガリ削っていき、精密な部品を作ってしまいます。
これは職人さんの技術の賜物なのです。

以前、私自身が実際に工作機械を回してステンレスの加工に挑戦したことがあります。
工作機械はマシニングセンタと呼ばれる全自動のものだったので、加工そのものはプログラミングした通りに全自動でやってくれます。
これだったら素人でも出来るだろうと思ったのですが、大間違いでした。
不思議なことに明らかにプロが作ったものと、私の作ったものでは出来が違いました。
ちなみにアルミニウムも削ってみたのですが、アルミの方が削りやすいのは素人でも分かりました。

確かにものづくりの現場では、自動で加工してくれる工作機械が当たり前のように入っていますが、刃が触れた時の微妙なズレや、加工の順番、最適な工具の選択などを熟知していないと、ステンレスの精密加工はできません。

これがものづくりの力なんだなぁ、と体験して初めて分かりました。

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